情報世界の新世界創造 第一章 第1話 ミドル・エピソード・サラ 『世界の始まり』
何もない。
光も。
身体の感覚も。
「ここは情報世界『インフォーマ・ポートフォリオ』。情報が実体を持つ世界。全ては、意のままに。チュートリアルは以上」
(何?ここは・・・)
(誰かいる?)
(情報が実態を持つ世界・・・どういうことかしら?)
突然、声が聞こえた。
意味が分からない。
(話しかけてみようかしら)
(まずは自己紹介よね、えーと私は・・・名前が・・・分からない・・・もう何でもいいわ)
「始めまして、私はサラ、あなたのお名前は?」
俺は・・・俺は誰だ?
何も思い出せない。
自分が誰なのか、ここはどこなのか
(あれ?これは私に話しかけているのかしら?)
「あなたもしかして、記憶がないの?・・・言葉は分かる?話せる?」
言葉は分かる。
話すとは、どうやるのだろう?体の感覚が無いのだ、声が出せない。
(私と同じ状況のようね)
「かなり重症みたいね・・・いいわ、話さなくても意思疎通はできてるから」
(とりあえずさっき聞いた内容と、分かりにくいから話し方を教えてあげたほうが良いかしら)
どうやら伝わっているらしい。
「記憶がないみたいだから説明してあげるわ、一度しか言わないからよく聞いてね。ここは情報世界『インフォーマ・ポートフォリオ』よ。情報が実体を持つ世界。話すときには「」をつけるの、やってみて」
意味が分からない、1度しか言わないと言いながら2回目だ。「」をつけるとはどういう事だろう?サラは頭が残念な子だったのか。
「ちょっと!頭が残念な子ってなによ!」
(まったく、人が教えてやっていると言うのに失礼なやつ)
「こうだろうか?」
「そう、それよ!やればできるじゃない。それよりも頭が残念な子ってなによ!」
(情報が実態を持つ世界・・・どういうことかしら)
「でも、話さなくても伝わってるんじゃないのか?何のために話すんだ?」
(まずは情報収集から、とりあえず話せているようだわ。話していれば何か情報が入るかもしれないわ。それが実態を持つ?他に人は居ないの?まさか二人きりじゃないわよね)
「あなた、もしかして私としか話さないつもり?いつまでも付き合って貰えるなんて思わない事ね。記憶もない厄介者の相手なんてごめんだわ。それよりも頭が残念な子ってなによ!」
そんなこと言いながら話し相手になっていろいろ教えてくれるなんてサラはやさしいなー
「な!そ、そんなことは・・・ちゃんと話さないと伝わらないんだからね!」
(何を急に!大事なことを考えていたのに動揺させて!)
ちゃんと伝わってるくせに、照れたところも可愛いな。
「もう知らない!」
(えーっと、情報が実態を持つ。今のところ身体の感覚もない。私の身体に関する情報がないからかしら?)
「ご、ごめん。分からないことがありすぎて状況が整理できないんだ、しばらく付き合ってくれないか?」
・・・
(まったく、こっちだって何も分からないって言うのに)
・・・
(いろいろ聞きたいのは私の方よ)
返事がない、ただの屍のようだ
「誰が屍なのよ!」
(私は屍なんかじゃない!情報が実態を持つ・・・分からないけど恐ろしいことのような気がする。このまま記憶もない人から変な情報を与えられても困るわね。)
「ごめん、つい」
(相手に情報を与えることができれば実際にその通りになるのかしら?今のところ話しているだけでは何も変化を感じない。言葉は意味を持たないのかしら?もう少し試してみましょう)
「・・・いいわ、付き合ってあげる、ただしあなたは私の奴隷よ。それで、何が聞きたいの?」
(こいつは私の奴隷だ)
「ちょ、ちょっと待て、奴隷ってなんだ!?」
「気にしなくていいわ、それで、何が聞きたいの?」
(こいつは私の奴隷だ、奴隷は何を聞きたいのかしら?)
「いや気にするよ!奴隷にするぐらいならもう放っておいてくれ!」
「分かったわ」
(どうやらこれではだめらしいわね)
・・・
(ちょっとあいつの話し方も面白そうね、真似してみようかしら)
・・・
(どうなるのかしら、ふふっ)
そして翌日・・・
「っておい、ちょっと待て!俺が悪かった!奴隷にでもなんでもなるから応答してくれ!」
「分かればいいのよ」
(凄い効果ね)
「はあ・・・」
「それで、何が聞きたいの?ああ、そうだ、忘れていたわ。その前にこのボタンを押してみて」
(言葉じゃだめなのか、それとも信ぴょう性が足りないのかしら?ちょっと試してみましょうか)
「ボタン?」
「ええ、早く」
(お願い、ボタンを押して!)
「どうやって?」
「ボタンを押そうと思えば押せるのよ」
(お願い!)
「お?なんかボタンを押した感覚があるな。どういう仕組みなんだ?」
「気にしなくていいわ、これがこの世界の本質よ。徐々に慣れていけばいいの」
(良かった、言葉でも良いのね。今のは強引過ぎたかしら、ちょっと危なかったわ。ダメだったら本当に頭が残念な子になるところだった。いえ、感覚がないのは相手も同じ、何が起きているのかなんて分かるはずがない。私も感覚が無い事を悟らせてはいけない。本当に一生感覚がないまま過ごすことになってしまいそうだわ)
「いったいなんなんだ・・・」
「それで、何が聞きたいの?」
「え?ああ、そうだった・・・まず、何も見えないんだが、というか目があるのかすら分からないんだが・・・」
(そんなもの、私にも分からないわよ・・・いいわ、私から動く。)
「目ってなに?」
(まずはこの世界には目が存在しないことにする。これで後から物を見るための準備が整ったわ。)
「は?」
もしかしてこの子、俺以上にやばい状況なんじゃ・・・
「失礼な!私があなたの言語に合わせてあげてるの、それとも私の言語で話してみる?情報言語『オード』よ。ΗΔΦΞΨζ」
(私が何かを知っているよう装って私の情報に信ぴょう性を持たせる。うまくごまかせるかしら?)
「ごめんなさい、戻してください。」
「ここでは物を見るのに目なんて必要ない。私にはこの世界で物を見るための感覚器官があるから見えているわ。この世界で暮らすほとんどの人は生まれながらに持っているの。でも、あなたには無いようね。あなたがこの世界で物を見ようとすると「エレシー」を使う必要があるわね。私は良いけど他の人に「目」なんて言っても誰も理解できないから気をつけなさい」
(見えない・・・どうして・・・?それともボタンのことはあいつが私に合わせただけ?感覚がどうとか変な事言ってたし・・・言葉ではだめなの?もう少し・・・やるしかないわ)
「いきなり盲目だと!?難易度高すぎるだろ俺の人生ーーー!!でもエレシーってのがあればいいんだな?それはここにあるのか?」
「とても高価なものだから暫くは手に入らないでしょうね」
(とりあえず保留、失敗すれば一生何も見えなくなるかもしれない、後で手に入れられる道を残しておかないと)
「そうなのか・・・ちなみにおいくら・・・?」
「魔晶石100万個よ。と言ってもあなたには分からないでしょうから、魔晶石は1つ1円の価値があるものと思っておけばいいわ。つまり100万円ね。」
(こいつが100万円貯めるまでに情報を集めることにするわ。どうやれば実態にできるのかしら?)
「100万円だとーーーー!?」
「そんなことよりもあなた住所はあるの?物を見ることの心配をする前に今にも消えそうなこの状況をどうにかしたほうが良くないかしら?」
(まずはこいつを従わせる。変な情報を与えられる前に。私が情報元になるんだ)
「え?俺って消えそうなのか?どこまで危機的状況なんだ!どうすれば消えずに済む!?」
「ここでは『ハイドミナント』通称HD世界にアドレス、つまり住所を持ってないとすぐに消えてしまうのよ、あなたが今いる場所はメモリ世界よ。メモリ世界は誰もが使える代わりに、他者の存在によって上書きされてしまう危険があるのの。今のあなたじゃスライムにも勝てないわよ。いつ消えてもおかしくない。むしろ今まで良く消えなかったわね。」
(人を従わせるためには・・・お金が良いわね。私がお金を持っていると言う情報を与えてやれば事実になるわ。いくらが良いかしら、100万・・・いやそれじゃだめ、エレシーを買って無一文なんてだめだわ。1000万・・・キリが良すぎる・・・2000万にしましょうか)
「ちょっと待ってくれ、意味が分からない。打開策はないのか?頼む、助けて!」
「いいわよ」
「え?いいの?」
「奴隷を失うのは私も惜しいもの。」
(こいつは私の奴隷だ)
そういうことか・・・っというかあれは本気だったのか・・・
「この世界の土地は一番安い物なら1万石あれば手に入るわ。情報世界ではほとんど手数料だけで良いの」
「そうなのか、助かるよ。でも俺無一文なんじゃないか?」
「だから私が助けてあげるって言ってるの!感謝しなさい」
(私はお金を持っている。)
「ああ・・・ありがとうサラ様」
「分かればいいのよ、それじゃあこの1万石を貸してあげる、利子は1時間1%でいいわ」
(お金の単位は石にしましょう。)
「おいちょっとまて!1時間1%って高すぎだろ!闇金もびっくりの暴利だよ」
「そう、それなら消えるのをおとなしく待つといいわ」
(あ、これは高すぎた、失敗したかしら。どうしましょう)
「俺が悪かったです助けてくださいサラ様」
「分かればいいのよ」
(セーフ・・・ね)
ちくしょう・・・
「じゃあ早速、これを受け取って」
(身体の感覚がないんだ、受け取ったと言っておけば受け取ったことになる。)
「どうやって?」
「もう、私がやるからいいわよ」
「お?なんかの数字が増えた感覚が・・・1万個もの石を持てるのか疑問だったがこういうことか」
(まずいわね、あいつのほうが先に感覚を掴んでしまいそうだわ。数字が増えた感覚って何よ!意味が分からないわ)
「そう、魔晶石はいくつ持っているか数字だけで表せるのよ。ちなみにその隣の【-100】が時間当たりの生産量よ。この世界では複利が禁止されているから勝手に増えたり減ったりすることはないわ。そしてこっちが私の持っている魔晶石よ」
「サラって2000万も持ってんの!?ってか人のまで分かるのかよ!この世界のセキュリティはどうなってんだ」
「大丈夫、見せてあげただけよ。あなたも早く隠しなさい。」
(2000万ってまだ伝えてなかったと思うけれど・・・思っただけでも実体になるのかしら?え?ちょっと危なくない!?)
(まずい、隠せるのかしら?隠せると言って隠せなければ私の情報の信ぴょう性がなくなる。あいつの所持金はどうでもいい、見えなくなったと言ってやればいいのだから。あいつに私の所持金を見えなくする!お願い!)
「趣味が悪いな・・・」
「な!あなたが見せびらかしてたから警告してあげたのよ!」
(疑って無さそう、成功・・・かしら?)
「そうか、ありがとう。ところで、2000万もあるならエレシーが買えるんじゃないのか?」
「もう、甘えないの!誰があったばかりの他人に100万も貸すと思うの!?」
「だよなぁ・・・でも何も見えないって辛すぎて、俺も限界なんだ。ちょっとした戯言は許してくれ」
「いいわ、とにかく急いで土地を買いに行くわよ、このままじゃ私の1万石が消えちゃうわ」
俺よりも石の心配か・・・
「お金の単位は石なのか?」
(どうやらうまくいったようね)
「そうよ、ところで、そろそろ内心をさらけ出すのは辞めなさい。」
(たまに内心が見えることがある、もしかしてあれが全て?ほとんど何も考えてなかったのかしら?)
「え?サラが勝手に俺の思考を覗いてたんじゃないのか!?」
「そんなはずないでしょうが、()をつけると他人からは見えないのよ」
「はあ・・・子供ね」
(これではっきりする)
「おい!聞こえてるじゃねーか」
(やっぱり、何か考えているわ)
「聞いてないわよ、どうせ変な事考えてたんでしょ?」
「ぐぬぬ・・・」
「ぐぬぬ・・・なんて言う人初めて見たわ。それから、私はやろうと思えばあなたの思ったことも覗けるから変なことは考えないように」
(これであいつの思考は全て筒抜けよ、ふふふっ)
「おい!」
「土地を買いに行くわよ」
「ああ・・・そうだな」
「このボタンを押して土地を買うのよ」
「身体の感覚もないのにボタンを押すとは?あれ、できた。ポチっと」
・・・
(また良く分からない感覚の話を・・・)
・・・
(まずいわ、私も早く感覚を掴まないと)
「おお?土地が自分の物になった感覚がした!!これどんな仕組みなんだ?」
「説明するのは難しいから自分で感覚を掴んでちょうだい、割と簡単に分かるはずよ。そしてここはもうあなたの土地。私もあなたの許可がないと入れないわ」
(感覚って何?誤魔化し切れるか怪しくなってきたわ・・・)
「許可?」
「追い出したければ出て行けと考えるだけで追い出せるわよ。でも私で試さないでよね、あの感覚は嫌いなの」
「そうか、じゃあ次は何をすれば?」
(やってくれないのね・・・)
「このボタンを押してみて」
「はいよ、ポチっと・・・」
「魔晶石を見て、1増えたでしょう?」
「おお!?ボタンを押すだけで魔晶石が1増えたぞ!」
「そう、このボタンを押すと魔晶石が1増えるの、10秒に1回しか意味がないわよ。さあ、これで魔晶石を集めて私の1万石を返しなさい」
「10秒に1回、充分だ!1時間に1%なんて借りたままでいられるか!すぐに返してやる」
(これで名実共に私の奴隷だ)
ポチポチポチポチポチ・・・
(ふふふっ)
ポチポチポチポチポチ・・・
20分後・・・
(あら?20分後ってなに?あいつがやったのかしら?)
「よし100回!」
「おめでとう、残り借金1万石よ、頑張ってね」
「は?・・・そうか・・・もう、借りてから1時間たってたのか・・・ってちょっとまて!どんなに早く押しても1時間に360石しか稼げないんだが!1時間に利子で100石取るとか、お前どんだけ俺からむしり取るつもりだよ!」
「命の恩人に向かって酷い言いぐさね、いいわ、特別に使うと魔晶石が1カ月間2倍獲得できるようになる魔晶石の巻物を売ってあげるわ、通常1000円のところが今私から買えば500円よ!魔晶石じゃなくて円だから気を付けてね」
(やっぱり利子がちょっと高すぎたわ・・・どうにかバランスを取らないと。収入を変えてやればいい)
「魔晶石じゃなくて円ってどういうことだ?俺は魔晶石しか持ってないが。魔晶石も借金しか持ってないが。」
(イメージしやすいようにゲーム世界風にしておきましょう。私とあいつが世界の情報をイメージできれば、実体化するはずだわ)
「あなたには関係ないことよ。」
「え?」
「知らないほうがいいわ。良かったわね、買ってくれたわよ。とにかく、これで一カ月間は魔晶石が2倍手に入るの。私は少し別の用事があるから出かけるわ、2時間後ぐらいにまた来るわ、それまでに1000石貯めておけば良いことがあるわ、頑張ってね」
「あいよ!よし、やるか!」
ポチポチポチポチポチ・・・
(成功したかしら?)
ポチポチポチポチポチ・・・
(大丈夫そうね)